
10-07-2013, 02:08 AM
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Vj
Eatd
二人とも二十六歳。高校時代の同級生で結婚して一年めだという。ガボールという旦那さんのほうはエレクト ロニクスの技師。クリスチーナという奥さんは工業デザイナー。ハンガリーではなかなか手に入らないといわれ るソ連製のマイカーを持っていてブダペストの市内をあちこち案内してくれた。すれていない、というのか、素 朴というのか、以後、二日間にわたってこの二人は親切にも私のガイド役を買って出てくれ、最後には自分の家 にまで招待してくれた。 私たちは旅館へ戻って来ていた。もう夜中の十二時に近い。こうなっては明日にはどうしても東京へ戻らねば なるまい。本間警視はまだ今夜の事件を知らないのだ。明日になれば耳に入るだろうし、そうなっては、即刻ク ビであろう。
その主義で行くと、ここも知らん顔で通り過《す》ぎるのが当たり前なのだが、そうしなかったのは、まだ多 少酔いが残っていたせいだろう。それに相手が若い女《じよ》性《せい》だったせいもある。これが男なら見向 きもしなかったに違《ちが》いない。もっとも男だったら、何の問題もなかったのだ。 「音代の心情はいい」
めぐみは我々の従妹で盛岡に住んでいる。 「すみません、急いでいるんですが」
食《しよく》欲《よく》なんか湧《わ》いて来ないや、畜《ちく》生《しよう》め! 「この三月俺が出征する時、俺あ隊まで会いにいった。俺あ自分からは、なんにもいわなかったが、帰る時そい つ『お父さん、お達者で』っていやがった」
ここだけは昔のまま手を加えられていない。部屋の主が四十年も留守にしていたせいだ。天蓋付きの寝台はも ちろんのこと、壁に飾られている古風な風景画にも見覚えがある。 とでも訊《き》いて、どこかに誘《さそ》うぐらいのことができれば……。
「そういえば、奈央から聞いたような気がします」 上諏訪・飯田
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